米半導体大手マイクロン・テクノロジーは日本時間12月4日に、同社の消費者向けメモリおよびストレージ製品ブランドである「Crucial(クルーシャル)」の事業から撤退する方針を明らかにしたことを発表。公式サイトの他にX上でもポストされており、消費者の間に大きな動揺が広がっている。
約30年にわたり、Crucialブランドは消費者に支え続けられてきた事に感謝の意を示すと共に、第2四半期末(2026年2月)まで、コンシューマーチャネルを通じてCrucial製品の出荷を継続するとも発表している。また併せてMicronブランドのエンタープライズ製品の販売を引き続きサポートすることも表明した。今回の判断の理由と今後の市場予測について追いかけてみよう。
サーバ向けのメモリ需要の高騰と品薄
今回のリリースではこの判断に至った理由も示されている。文中では「データセンターにおけるAI主導の成長は、メモリとストレージの需要の急増につながっています。マイクロンは、成長著しいセグメントにおける大規模かつ戦略的なお客様への供給とサポートを強化するため、Crucialのコンシューマー事業から撤退するという苦渋の決断を下しました」と、マイクロンテクノロジーのエグゼクティブバイスプレジデント兼最高事業責任者であるスミット・サダナ氏が述べた事が記載されている。同氏は続けて「熱心な消費者コミュニティのおかげで、Crucialブランドは最先端のメモリおよびストレージ製品における技術的リーダーシップ、品質、信頼性の代名詞となりました。過去29年間、Crucialの歩みを支えてくださった数百万のお客様、数百のパートナー企業、そしてマイクロンチームメンバーの皆様に感謝申し上げます。」と、この判断に対する理解を求めている。
この様な判断を下したAI主導の成長と、メモリの逼迫はどのように影響しているのだろうか。現在世界各地でAI事業に対するニーズが爆発的に高まる中で、それを処理する為のデータセンター建設ラッシュも続いている。そのデータセンター内部で使用されるサーバ向けメモリとして使われるのが「LPDDR」というタイプのメモリだ。現在パソコンなどで広く利用されているメモリは「DDR5 SDRAM」という規格であり、ハイパワーかつハイパフォーマンスな製品であるが、LPDDRはそれと比較して低電力である程度のパフォーマンスを発揮するモデルである。LPDDRは主にスマートフォンなどのモバイルデバイス向けのメモリであったが、これがAI事業のコアとなるデータセンターへと大量に流れこんでいるのだ。
どういう事かと言うと、データセンター自体が莫大な電力を消費する。運用する側としては、少しでも消費電力を下げつつランニングコストを抑える事で、利益を最大化したいと見込む。そんな中で通常のSDRAMと比較して低電力である程度の効果が期待できるLPDDRを導入した方が、SDRAMを導入するよりも長期的な目線でお得であると判断されたのだ。
これだけならば単に需要が上がったというだけの話でしかないが、問題はそのスピードだ。急激な需要拡大により生産体制が追いつかない状況でありながら、メモリに使われるウェハー(基板)については規格を問わず共通化されている。つまるところメモリに使用されるウェハーそのものの供給が間に合わなくなったのだ。AI事業に過剰な資金が流れ込む現状と限定された素材量でメモリの生産配分をどうするかという情報を目の前にした経営者の見る景色として、拡大しつつあるAI事業向けのLPDDRの生産にシフトした方が、コンシューマ向けのSDRAMやLPDDRの提供を行うより「割が良い」ものになってしまったのだ。
PCとゲーム機が消える日は来るのか
台湾に本社を置くPCパーツメーカーTEAMGROUPの運営するメディア「TECH POWER UP」によればメモリ市場は現在、深刻な供給不足に直面しているという。Team Groupゼネラルマネージャーのジェリー・チェン氏によると、主要なDRAMカテゴリーの12月の契約価格は80~100%上昇しているとの事である。チェン氏は、この大幅な価格上昇を数年にわたるメモリの値上がりサイクルの「始まり」と表現し、最も深刻な影響はディストリビューターの在庫がなくなる2026年前半に感じられるだろうと警告している。この価格ショックはすでにOEMのシステム部品構成に影響を及ぼしており、PCおよびノートPCのBOMに占めるメモリの割合は、構成に応じて10ドル台半ばから20ドル台半ば、あるいはそれ以上に上昇している。DDR5とSSDの価格は平均で2~3倍に上昇しており、DRAM全体では、前年比171.8%の高価格となっていると綴っている。同社は独自ブランドのメモリ「TEAM」で知られており、この話題に関しては敏感に反応している。
先述したLPDDRの不足が招くのは、低電力で安定した動作を可能とする製品、つまるところ携帯可能なNintendoSwitch2や各種ポータブルゲーミングPC、ノートパソコンの様な製品に対する価格面での影響だ。特にNintendoSwitch2は低価格での販売を続けてきたが、ここにおいてメモリの価格上昇は無視できる幅ではなくなりつつある。生産量の縮小を図るか、あるいはやむなく価格を引き上げる措置が取られるのではないかとユーザー達からは不安の声が上がっている。
そしてデスクトップPCでも懸念が発生している。比較的安価なBTOパソコンにおいても、元々32GBのメモリ構成で売り出していたPCが16GBまでメモリをダウングレードして、同価格で売りに出しているとの報告がなされている。メモリの価格上昇は主に高容量のメモリを中心に発生している為、比較的低価格の変動に留まる8GB帯のメモリ2枚構成というのが現状の安牌となりそうだ。
いずれにせよ、今回のブランドの撤退はPCパーツだけでなくコンシューマ市場全般に影響を与える可能性は大きい。AI特需の影でパソコンやゲーム機が高級品と化す様ではそもそも本末転倒であり、こんな時代の逆行は是非とも避けたい所だ。
最終更新日: 2025年12月5日 03:30