株式会社カプコンは11月19日に、11月18日(火)に開催された「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2025 Division F 第9節」の試合速報を発表。この第9節の展開次第でプレーオフ出場の可否が決定する大一番だけあって、どのチームも気合を入れての勝負となっている。そんな中で注目を集めるチームが一つある。現在トップを走るチーム「REJECT」だ。
同チームは大会中に広島 TEAM iXAと熾烈なトップ争いを繰り広げており、Division F内において全体の流れを主導する立ち位置であった。そんな同チームは第9節でも順当に勝ち進み、1位でプレーオフ進出の権利を勝ち取っている。だがREJECTは序盤で出場選手の見直しを一度行っており、見直し対象となった部分には往年の格闘ゲームファンであれば一度は聞き覚えのある名前が登録されていた。格闘ゲーマーとしてギネス記録を保持するプレイヤー、ウメハラ氏である。
同氏はストリートファイターシリーズも嗜むプロのeスポーツプレイヤーとして、現在「最も長くeスポーツで賞金を稼いできたプレイヤー」と認知されている。様々な企業とスポンサー契約を結ぶと同時に、変化する格闘ゲーム市場に対応しながら、現在は配信者としても活動。eスポーツを配信事業の絡むエンタメ的娯楽へと押し上げた立役者の一人と言える人物である。
彼を語る上で外せない要素としては、最も有名な格闘ゲームシーンの一つである「背水の逆転劇」が挙げられる。世界規模の格闘ゲーム大会EVO 2004の準決勝で行われたストリートファイターIII 3rd STRIKEの試合で、ウメハラ氏は対戦相手であるジャスティン氏に苦戦を強いられていた。体力ゲージが残り1ドット、つまり「何かしらの技をガードしても削りダメージを受けて敗北する」という状況で、ジャスティン氏の駆る春麗は「鳳翼扇」という連続蹴りを見舞うスーパーアーツ(超必殺技)を発動。これをウメハラ氏は、同ゲームに搭載されている攻撃直前10フレーム(約0.17秒)前に下方向に入力を行う事で相手の攻撃をノーダメージで受け流す「ブロッキング」を発動。連続蹴りである鳳翼扇は15ヒットもの攻撃を相手に見舞う上に、ブロッキングを続けて行う場合は23フレーム(約0.23秒)の入力不可時間が存在する為、事前にどういう攻撃が来るかを予測しブロッキングを先行入力しておく必要があるのだ。そして信じられない事に、この15発の攻撃をすべてブロッキングし、そのうえでウメハラ氏の駆るケンは12発のコンボを決めた上でスーパーアーツ「疾風迅雷脚」を繰り出し逆転勝利。決勝戦でこそウメハラ氏は敗北したが、この見事なまでの逆転勝利でその名を轟かせて以降、多くの格闘ゲーム業界にその名を知られる様になったのである。
しかしストリートファイター6の今回のリーグにおいては、ウメハラ氏は苦しい戦いを強いられていた。3節、4節、6節と三回出場するもいずれも負け試合となってしまい、彼のファンからも落胆の声が聞かれる程には心配される程であった。もちろん格闘ゲームである以上有名選手であろうと負ける事はあるが、こうも負けが続いていては今後のプレイングにも期待が持てないのではないかと予想されていた。その矢先、第9節においてREJECTはウメハラ氏を大将として指定。DetonatioN FocusMeとの戦いは大将戦までもつれ込む結果となり、必然的にウメハラ氏は注目の的となったのである。それは良い意味でも良くない意味でも、である。
相手は同大会プレイヤーランキング7位のGO1選手、駆るのは春麗。ウメハラ選手は豪鬼をチョイスしての一戦となった。試合開始直後からウメハラ選手はGO1選手を徐々に追い詰めていき、あっという間に2本先取。一方のGO1選手も棒立ちでやられるほど呆けてはいない。ドライブゲージをふんだんに使用して果敢な攻めを見せる。だがウメハラ選手はそれを逆手に取り、GO1選手がドライブゲージを使い切った弱体化状態であるバーンアウトまで追い込み、じわじわとプレッシャーをかける。GO1選手はその後一本取り返すも、4戦目にてプレイミスが発生。その隙を逃す程甘くはなく、きっちりとウメハラ選手がK.O.勝ちを収めて大将戦を制した。今大会初勝利ともあって、現地組以上にネット界隈が大きくこの勝利にざわつく事となり、緒戦の負け戦の空気が一気に吹き飛ぶ程となった。
e-Sportsの選手寿命とセカンドキャリアの問題
今回のウメハラ氏の劇的な勝利は格闘ゲーム界隈を騒がせる出来事となったが、当のウメハラ選手は現在44歳と格闘ゲーマーとしては非常に高齢に位置する選手だ。FPSや格闘ゲームといったタイトルは総じて反射神経や反応速度が物を言う界隈であり、総じて20台後半から30台前半までが選手としての寿命となる。これは他の産業に比べて遥かに若い。
そのうえで問題となるのが、選手のセカンドキャリアだ。ウメハラ氏のような実績があるならば兎も角として、他の「一般的な」eSportsプレイヤーに関しては業界に身を置き続けられるかという点で疑問符が付く程には、受け皿としての成熟が遅い界隈である。プロゲーマーを職業として成り立たせるには相応のスポンサーや腕が必要となるのであり、かつ今大会のウメハラ氏の前半における戦績の様な「強者であっても環境に対応しあぐねている」評価が付くと、それは選手そのものの人気に直結する。そこを持ち直せるだけの余裕があるならばまだしも、そうでないセミプロ、あるいはプロとして戦う選手の「今後」のキャリアはあまりにも一般的な社会とはかけ離れた所からのスタートとなる。
最近では若年層の選手が問題行動を起こすケースも増えているが、ゲームとの接点が非常に多い一方で、一般的な社会との接点を多く持つことができないというeSports業界の選手を取り巻く、一種の構造的問題であるとも言える。極論ではあるが、選手として社会的諸要素から「隔離」されたプレイヤーが選手を辞めてしまった後、いざ社会に出るとなった際に果たしてどこが受け皿となるのかという問題は今後多く出てくる事になるだろう。そして選手はいつまで舞台に立ち続ける事が出来るのか。いずれこの問題が大きく取り上げられる機会も来るかと思わずにはいられない。
最終更新日: 2025年11月21日 07:00